一般的に、運動は「有酸素運動」と「無酸素運動」の2つに大別す
ることができます。
「有酸素運動」と「無酸素運動」の違いを知ることで練習における効率が変わります。
それぞれの要素を意識的に強化し、普段の練習をより効果的なものにしていきましょう。
「有酸素運動」と「無酸素運動」
まず、有酸素運動とは「長時間無理なく続けられる強度の低い運動」のことを指します。
一方で、無酸素運動は「短い時間に大きな力を発揮する強度の高い運動」のことを指します。
代表的なスポーツ例
有酸素運動:水泳、ジョギング・ウォーキング、サイクリングなど
無酸素運動:短距離走、投擲、ウエイトリフティング、筋トレなど
「有酸素運動」と「無酸素運動」の境界線
ここで注意すべきは、これらの競技も「有酸素運動」と「無酸素運動」に明確に分けられる訳ではないということです。
競技の特性として「有酸素運動」と「無酸素運動」の占める割合が多いだけであって、どんな運動においても「有酸素運動」と「無酸素運動」の要素は入ってきます。
つまり、同じ運動でも「長時間酸素を取り入れながらおこなえる範囲」でおこなう場合は、有酸素運動の割合が多くなり、酸素を供給しきれない「短時間で全力に近い範囲」でおこなう場合は無酸素運動の割合が多くなる訳です。
「エネルギー供給システム」の基礎知識
この「有酸素運動」と「無酸素運動」の大きな違いは、「エネルギー供給システム」の違いです。
まずは、運動における基本的な「エネルギー供給システム」について理解しましょう。
エネルギー源は「ATP(アデノシン三リン酸)」
全てのエネルギーは、体内にある「ATP(アデノシン三リン酸)」を分解して産出しています。
ATPは体内にわずかしかないので、運動を始めるとすぐに使い切ってしまいます。
そのため、体内では「エネルギー供給システム」が働き、ATPを再合成し始めます。
この「エネルギー供給システム」は大きく分けて「瞬発系」「解糖系」「有酸素系」の3つあります。
この3つの「エネルギー供給システム」のメリットとデメリットをそれぞれ確認していきましょう。
① 「瞬発系」のエネルギー供給システム
「瞬発系(ATP-PCr)」は、主に無酸素運動の際に働くシステムで、クレアチンリン酸を原料としてATPを再合成します。
特に「短時間に大きな力を必要とする運動」で働き、以下のようなメリット・デメリットが挙げられます。
メリット:酸素を必要としない。短時間で大きなエネルギーを供給できる。
デメリット:エネルギー供給を8秒程度しか持続できない。
瞬発系を鍛えるトレーニングについては【No.211 スプリントトレーニングに挑戦しよう!】を参照ください。
② 「解糖系」のエネルギー供給システム
「解糖系」は、主に無酸素運動の際に働くシステムで、グリコーゲンを原料として再合成します。
グリコーゲンは分解されて乳酸になり、乳酸が増加すると筋収縮を低下させてしまいます。
グリコーゲンの分解を伴う「解糖系」には、以下のようなメリット・デメリットが挙げられます。
メリット:酸素を必要としない。比較的短時間である程度大きなエネルギーを供給できる。
デメリット:エネルギー供給を33秒程度しか持続できない。乳酸が蓄積する。
解糖系を鍛えるトレーニングについては【No.210 スピードトレーニングに挑戦しよう!】を参照ください。
③ 「有酸素系」エネルギー供給システム
「有酸素系」は、主に有酸素運動の際に働くシステムで、主に糖質や脂肪を原料としてエネルギーを生み出します。
糖質や脂肪の分解には複雑な過程を経るため、以下のようなメリット・デメリットが挙げられます。
メリット:長時間にわたってエネルギーを供給し続けられる。乳酸が蓄積しない。
デメリット:エネルギーを生み出す時間がかかる。単位時間当たりの産出可能エネルギーが少ない。
「有酸素」と「無酸素」のエネルギー割合
これまでの内容を補足すると、3つのシステムは一般的に「瞬発系」「解糖系」「有酸素系」の順に稼働します。
競技で言うと、100mでは「瞬発系」、400mでは「解糖系」、1500m以上では「有酸素系」が主に稼働している(稼働している時間が長い)ということです。
ただし、これらのエネルギー供給システムは、どれかが単独で働く訳ではなく、密接に相互補完的な役割を果たしています。
「有酸素」と「無酸素」のエネルギー寄与率
下記の表は「有酸素」と「無酸素」のエネルギー寄与率を競技種目別に一覧表にまとめたものです。
エネルギー寄与率 |
種目 |
有酸素 |
無酸素 |
100m |
10 |
90 |
200m |
15 |
85 |
400m |
30 |
70 |
800m |
60 |
40 |
1500m |
75 |
25 |
3000m |
85 |
15 |
5000m |
90 |
10 |
選手の競技レベルによって競技時間が変わってくるため、エネルギー寄与率は競技レベルに伴って多少変化しますが、概ねこの割合に近い値になるはずです。
つまり、短距離選手にも有酸素運動は必要になりますし、長距離選手にも無酸素運動は必要であり、それらの割合を考えた練習方法を確立することが重要になってきます。
エネルギー供給システムに応じた練習計画
それでは、これまでの内容を踏まえて具体的な練習計画を立てていきましょう。
以下の点を参考にすると大まかな練習の割合や方向性が見えてくると思います。
① エネルギー割合に応じた計画
まずは、先ほど示した「エネルギー寄与率」の割合をもとに、1週間の練習割合を計画してみましょう。
例えば、1500mを強化したい選手の場合は、エネルギー寄与率は「有酸素75%、無酸素25%」になります。つまり、1週間で5回練習する場合は「3~4回は有酸素系。1~2回は無酸素系」の練習をするということです。
例:月と金→300m×5、火と土→jog、水→ペース走、木と日→off
② ボトルネックに応じた計画
次に、練習の中で自分のボトルネックを探し、それをもとに練習計画を立ててみましょう。
ここで言うボトルネックとは「その選手が記録の向上を狙うにあたって一番の課題となる点」のことを指します。
例えば、1500m選手の場合は、大まかに「持久力」か「スピード」が課題となります。「持久力」が課題の場合は有酸素系の強化、「スピード」が課題の場合は無酸素系の強化、のように練習をボトルネックに合わせて変更するということです。
例:月と水と金→ペース走、火と土→jog、木と日→off
ボトルネックに応じた練習例について詳しく知りたい場合は、こちら↗️
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